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超高齢社会の幸せは、だれがつくるのか?

超高齢社会のイメージの輪郭をつくっている問題や課題は本当にリアルなのか?今を生きるシニアたちを通して、超高齢社会の現実をもう一度、客観的に捉えてみる。そこから見えてくる発見や、新しい未来は何か。

VOL.3

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超高齢社会には、年金制度の崩壊、孤独死、老老介護といったネガティブなイメージがどうしても付きまとう。しかし、「超高齢社会」プロジェクトチームは「本当に、そんな暗い未来しかないのだろうか」という疑問の下、考察と検証を重ねてきた。そして、高齢者の可能性を探ることは、労働人口の減少を緩和することにもなるのではないか。そこでは、“セカンドワーク”がますます重要なキーワードになっていくだろうという結論に達した。

シニア型チーム起業というアイデア

THINK HUMAN EXHIBITIONの展示では、高齢者の生きがいを考察する五つの可能性を示した。具体的には、高齢者がそれまでの経験を活かし、新たな価値を生み出せる「組織サーキュレーター」「地域コミュニティビルダー」「子育てアテンダント」「起業パートナー」「ウェルネス・コンシェルジュ」だ。

雑誌『ダイヤモンド クォータリー』編集長の岩崎卓也さんをゲストスピーカーに招いたプレゼンテーションでは、まず、日本の現状が示された。

定年を迎えた人たちが次なる仕事を探す時、多くの場合、人手不足が生じている職種を選ばざるをえない。そのほとんどは単純労働であり、近い将来AIやロボットに代替されると見通されている。高齢者の心配事の一つに認知症があるが、脳に適度な負荷をかけることで認知的能力が高まり、脳神経へのダメージが軽減・回復されることが医学的にわかっている。これを「認知的予備力」というが、これを強化するには、たえず脳や神経を使い、シナプスを刺激する仕事が望ましい。

ならば、単純労働のオルタナティブとして、だれもが知的で創造的な仕事、エキサイティングな仕事に挑戦し、新たな価値やイノベーションを生み出す、そんな社会を構想してはどうだろうか。こうした仮説に基づき、岩崎さんから提案されたのが「シニア向けチーム型起業」というアイデアである。

「起業というと若い人だけがすることと思われがちですが、50代、60代でも遅くないはずです。たとえばカーネル・サンダース氏は62歳でケンタッキーフライドチキンを起業し、安藤百福氏はカップヌードルを61歳で発明しました。最近では、元住友銀行の吉田博一氏が69歳で蓄電池ベンチャーを立ち上げ、84歳の現在でも社長です。とはいえ、一人で起業するのは生やさしいことではなく、勇気や度胸もいります。ですから、一緒にやってくれる人、背中を押して支援してくれる人がいれば心強い。本田宗一郎氏と藤沢武夫氏は通産省の竹島弘氏の仲介によって出会ったそうです。このように第三者が介して起業のパートナーを探してあげる。その際、AIを使えば最適なパートナリングやチーミングも可能なはずです。いずれにしても起業は若者の特権ではないということです」

さらに、後継者不足に悩む伝統工芸の仕事を一堂に会した仕事見本市の提案もなされた。

「“Do what you love.”という言葉がありますが、シニア世代も“やりたいこと”にチャレンジしようと。ただし、名人の域を目指す必要はなくて、差し当たり1年程度の修行で“半人前でもいい”という考え方でよいかと。実際、やりたいことが必ずしも“できること”とは限りませんし。新規事業同様、スモールスタートでいきましょう」


イノベーションは老若男女が混じり合った「コミュニティ」から生まれる

定年後、地方で暮らそうと思っても、職場というコミュニティしか知らない都会のビジネスパーソンにとっては、地方のコミュニティに溶け込むのは一筋縄ではいかない。新たなコミュニティのあり方として、老若男女はどういう形で馴染めるのだろうか。

「サントリーの新浪剛史さんが、『混ぜるが勝ち(価値)』と面白いことをおっしゃっています。老若男女が混ざっていく中で、たとえば島根県隠岐郡の海士(あま)町、徳島県の勝山町や神山町、香川県の丸亀町のように、コミュニティの中に、新しい信頼関係や共生関係、イノベーションやビジネスモデル、場合によってはチーム型起業が生まれていくのではないでしょうか」

ただし、そこにはだかるのは「高齢者は戦力外」「高齢者にやれる仕事は限られている」といった固定概念だ。

また、日本の場合、世代を超えたコラボレーションや共生はハードルが高い。
「某グローバル企業では、若い人たちがシニア世代にデジタル技術などを教える“リバースメンタリング”という制度を始めました。しかし、日本では思っていたような成果が出なかったそうです。その理由は敬語にありました。敬語という慣習は、円滑な人間関係やコミュニケーションに不可欠なものですが、若い人たちはつい敬語を忘れてしまうことがあり、シニア世代を怒らせたり不愉快な気分にさせたりしたそうです。シニア世代は、『自分たちは先輩である』という意識が強い。長幼の序なんて時代遅れだとは言いませんが、相互に尊重・尊敬する関係が成立しないと、うまく“混じれ”ません。若い世代ももう少し敬語やマナーに気をつける必要があるでしょうが、何よりシニア世代は目下の人たちに敬意を払って接する術を身につけるべきです。セカンドライフに向けたリカレント教育も大切ですが、多様性にあふれるオープンな社会を実現するには、世代間の壁や相克は邪魔でしかありません」

日本は超高齢社会に世界で最初に突入した国であり、そこには未知なる課題が待ち構えている。こうした課題に真っ先に直面することから「課題先進国」ともいわれるが、しかし裏を返せば、課題“解決”先進国になれるチャンスでもある。その時、重要になってくるのが「コミュニティ」である。

「コミュニティには、イノベーションや未来づくりのチャンスやシーズが潜んでいます。これを生かすには、既存の考え方を変えなければなりません。たとえば、日本では、もっぱら『国』という単位で経済が語られていますが、ポール・クルーグマンやポール・ローマーといったノーベル賞経済学者たちは、都市や街、コミュニティの視点の重要性を訴えています。実際、こうした考え方に基づいて行動している政治家や行政官、産業人、建築家、NPOやNGOなどがたくさんいて、さまざまな世代や人種が共生する市民社会や循環型経済に関する議論を交わしています。明るい超高齢社会をつくるには、同様にコミュニティづくりに関する議論と取り組みが欠かせません」

人生100年時代が到来し、ますます定年後の働き方、もっといえば人生を折り返してからの生き方そのものが問われていくだろう。コミュニティのあり方もこれまでとは大きく変わり、ますます重要性を帯びてくるに違いない。帝人は、一人ひとりが、コミュニティの中で自分なりの価値観や豊かさを求めていける寛容な社会を目指す。そして、高齢者の可能性を正しく理解し、多面的に物事を見ることで、今後の事業に活かしていきたいと考える。高齢者への理解を深めることが結果、これまでになかった視点の“セカンドワーク”という雇用を生み、コミュニティにおける高齢者の活躍によって世代を超えた多くの人々のQOL(=Quality of life)向上を後押しできると信じているからだ。そう、超高齢社会の行く末は決して暗い未来ではない。そのことを、日本が世界に提示できるように―。

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