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超高齢社会の幸せは、だれがつくるのか?

超高齢社会のイメージの輪郭をつくっている問題や課題は本当にリアルなのか?今を生きるシニアたちを通して、超高齢社会の現実をもう一度、客観的に捉えてみる。そこから見えてくる発見や、新しい未来は何か。

VOL.2

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超高齢社会が直面する未来をイラスト(漫画)的に表現するなら、労働力不足が深刻化し、年金は崩壊した社会において、「自活」を求められた高齢者がパワースーツを身に着け、AIのサポートを得ながら単純労働をやり続けるといった未来予想図である。たしかに技術の進化や社会制度の変化によって、シニアが働ける場所は確実に広がっていく。しかし、そうした未来では「シニアでも」できるといったネガティブな仕事を拡大するだけだろうか。この企画では「シニアだからこそ」できる仕事に注目する。定年してから実現したいこととして、約8割の人が「働くこと」を選んでいるという。仕事をすることが、生活の糧ではなく、高齢者の生きがいとなるための、新たな5つの可能性を示す。

職業:組織サーキュレーター

かつて会社の中に、暇さえあれば社内をぐるぐると回遊する、居場所の定まらない「ふらふらした人」がいなかっただろうか。決してメインストリームではない職務に就いていながら顔が広く、あくせくすることなく、組織のヒエラルキーから微妙に距離を置き、仕事の愚痴や人間関係のいざこざからプライベートまでさまざまな相談に乗る。もちろん経営の上層部からはムダな人材と見なされることもあるが、実は人間関係の潤滑油になったり、チームの士気を高める活性剤になったり、トラブルの緩衝剤になったりと、数字に表れない貢献を果たしていることも多い。しかし生産性を高めることを追求する企業では現在、こうした人物の居場所が少なくなっている。

一方で仕事の専門化が進み、企業における人の流動性が高まる中、組織に対する個人の依存度は減っており、人間関係も希薄になっている。かつては業務上の利害関係のない者同士の情報交換や交流の場として機能していた喫煙スペースや飲み会も減っている。生産性をモノサシにすれば当然の傾向も、こうした環境ではイノベーションが起きにくい。

イノベーションとは往々にして、異質なもの同士の摩擦から生まれるものだ。異なる知識、異なる才能、異なる発想、異なる文化……。そういったものは硬直化した組織では自然に接触することはない。そこで、停滞した空気を循環させて新しい風を起こす「組織サーキュレーター」ともいうべき存在に注目が集まる。

実際に、オープンイノベーションがうまくいく環境を構築するために、あえて所属をあいまいにした人物に自由裁量を与え、組織内、あるいは組織内外の情報流通を活発化している企業は少なくない。かつては「ふらふらした人」としてなんとなく「許容されていた」役割が、今では強い目的意識のもとで意図的に配置すべき存在という認識が生まれつつある。

経験豊かなシニアが増えてゆくこれからの社会では、そんな人と人の関係を良い意味でかき回す役割として、組織をいったんリタイアした人々が活躍していくだろう。組織人としての人生を一度まっとうしたシニアは、いい意味でリスクがなく、チャレンジの推進役にふさわしい。また、こうしたミッションを果たすためには、毎日定時に出社するワークスタイルより、業務外の余暇活動を充実させ、その経験の成果を持ち帰ることが期待される。シニアの新たな働き方の創出にもつながるのではないだろうか。


職業:地域コミュニティビルダー

かつてはどんな地域にも世話焼きおじさん&おばさんがいたものだ。コミュニティ内の人間関係に詳しく、誰とでもまんべんなく接点を持ち、地域の人々のよろず相談を引き受ける。アドバイスや知識を授ける知恵袋であり、結婚や仕事のお世話で人と人の間を取り持つ存在……。地域コミュニティはそうした人材を介して常に「おせっかい」や「大きなお世話」を与え合っており、だからこそ大きな家族のような助け合う関係性を築くことができていた。

翻って現在、個が尊重され、自由とプライバシーが守られるようになった半面、隠れた孤独、隠れた孤立が社会問題となっている。コミュニティ内での相互干渉がなくなったことで個人の問題が地域の中で見えなくなり、必要な公共サービスにアクセスできないまま、貧困や虐待、孤独死といった取り返しのつかない状態に陥るケースが増えているのだ。

こうした悲劇を防ぐためにも、個を尊重しながら人をつなぐ、新しいスタイルの「世話焼きおじさん&おばさん」が求められている。企業を離れ、フリーな立場で地域に暮らすシニア人材はその適任だ。企業という強いコミュニティの中で人脈を構築し、利害を調整し、問題解決に取り組んできた彼らのスキルとノウハウを生かす場は、地域の中に驚くほど多いのだ。

荒廃したコミュニティの再生事例としては、ロンドン東部のブロムリ-・バイ・ボウ地区が有名だ。エスニック・マイノリティーが住民の多数を占めるこの地域は、行政の福祉施策がゆきとどかず、長く失業率や貧困率の高い状態が続いていた。ところがこの地域の教会に赴任してきたある牧師が状況を変える。地域の困りごとを聞き、解決できる人を探してつなぐといったことを繰り返しているうちに、それがひとつの仕組みとなり、医療、育児、就業支援など住民が抱えるさまざまな問題を相互支援で解決するコミュニケーションセンターが設立された。社会を俯瞰するマクロな視点でミクロな地域の課題を洗い出し、地域の力で問題解決を図る。コミュニティは今、そんな存在を求めているのだ。

自らの経験をリソースに、自分の暮らす地域をよりよく再構築していく。こうした活動はソーシャルであると同時に、自分や家族が安心して暮らせる「終のすみか」づくりというパーソナルな意味も持つ。やりがいの面でも、社会的インパクトの面でも、人生の最後に取り組むにふさわしい仕事といえるのではないだろうか。


職業:子育てアテンダント

高齢化社会を思い描くとき、見落としがちなのが、高齢者のマジョリティが女性である、という事実だ。総務省がまとめた統計によると、日本の65歳以上人口に占める女性の割合は57%となっている(2017年9月現在)。高年齢層になればなるほどこの割合は上昇し、80歳以上になると、実に64%を女性が占めているのだ。

さて、世界一のスピードで少子化、高齢化が進む日本において、子育てがしやすい社会の実現は、喫緊かつ最重要な社会課題のひとつとなっている。この解決のために、層の厚いシニア女性たちの力を生かさない手はない。

もちろん、家族単位で見れば、女性に限らずシニア世代は子育ての大きな戦力になっている。働き盛りの子ども世代と「スープの冷めない距離」に暮らし、精力的に孫の面倒を見るおじいちゃん、おばあちゃんは世に多い。しかしその一方で、育児のワンオペや、仕事とのギリギリの両立に苦しむ人々がいる。働きながら子どもを育てるというごくあたり前のことが、「時間的・経済的に余裕があり、元気で、関係良好な親が近くに住んでいる」という幸運に恵まれた一部の層だけの特権である限り、子育てしやすい社会はいつになっても実現しない。

必要なのは「子育ての社会化」、もっといえば、よりご近所で完結する「子育てのコミュニティ化」ではないだろうか。保育所などの公的サービスからこぼれ落ちる部分に、子育て経験のあるシニア女性の力を生かすことができれば、子育て環境は大きく向上する。それは同時に、孤立しがちな若い母親を精神的に支えることにもつながり、ひいては地域そのものの価値を向上させるだろう。

すでに、地域の顔見知り同士をネットワークし、送り迎えや短時間の託児などをシェアし合うサービスの実例はある。現役世代が中心となって運営するこうした共助の仕組みに、シニアの積極的な参画が待たれているのだ。

子どもが減り、お年寄りが増える少子高齢化社会は、見方を変えれば、たったひとりの子どもにも、たくさんの大人の手がかけられる社会ともいえる。しかし現実には、一人っ子が増えることで、きょうだいはもちろん、いとこ、おじさん、おばさんといった近しい関係の親戚も減っており、子どもを取り巻く環境は閉鎖的になりがちだ。地域に住むシニアの力を借りながら、子育てを広くコミュニティに開放することは、子どもが社会を学ぶチャネルを多様化するという意味でも重要なのだ。


職業:起業パートナー

人生100年時代。ひとつの会社、ひとつの仕事の「ワンキャリア」でライフコースを完結させるには、人生はあまりに長くなっている。特定の組織に依存することなく、個人で多様なキャリアを積む生き方は、これからますます広がっていく。つまり、業種や職種をまたぐ「マルチキャリア」を経験したシニア人材が、社会にどんどん蓄積されていくのだ。そうした人々の貴重なノウハウを若い世代のビジネスパーソンに環流させることができれば、社会を活性化させるための大きな資源となるはずだ。そこで、こうしたシニア層に期待される役割が「若い起業家のパートナー」となることだ。

技術とアイデアは素晴らしいのに、経営のノウハウ不足で行き詰まるベンチャーは珍しくない。彼らに必要なのは、知恵を提供するコンサルタントや、資金を提供する投資家といった資源提供者だけでなく、事業の可能性を見極めて、必要な人的ネットワーク構築のために自律的に動いたり、孤独になりがちな経営者に寄り添ってメンタル面を支えたりという伴走者となれる人材ではないだろうか。新しいビジネスを社会の中に正しく位置づけ、助言者として、投資家として、仲間として、時には顧客として発展を見守る。そんな役割を果たすには、複数のキャリアを経験し、マネジメントやリーダーシップ、ホスピタリティを発揮できるシニアこそが適任だ。

「体験」したことによる判断力はAIやロボットでは決して代替できない人間だけが持つ資源であり、いうまでもなく経験豊かなシニアに優位性がある。さらに子どもの教育や住宅ローンをすでに終え、人生のゴールまでのロードマップをほぼ描き終え、時間的にも経済的にも余裕があるシニアは、リスクの多い起業を物心両面で支えるにふさわしい立場にあるといえる。マルチキャリアの人生設計があたり前になれば、退職後に新たな事業を起こすシニア起業家も増える。シニア起業をシニアパートナーが支えるといったビジネスモデルも広がるだろう。

ただし、彼らがこうした仕事で成果を上げるためには、過去の肩書や実績をリセットし、上下関係のない対等なパートナーとして若き経営者に向き合うマインドセットが必要だ。そうでなければパートナーどころか、旧弊な論理で若手を抑圧する存在になりかねないからだ。優れた起業パートナーは、後進の起業パートナーを育成するトレーナーという次なるキャリアが開ける可能性も高いのではないだろうか。


職業:ウェルネス・コンシェルジュ

高血圧、糖尿病、高脂血症、動脈硬化性疾患、歯周病……。生活習慣病を患う人の増加は、高齢化社会の避けられない現実だ。2016年の厚生労働省の国民健康・栄養調査では、糖尿病が疑われる人は実に1000万人に及ぶと推計されている。

生活習慣病をもたらす要因は、遺伝、環境、生活習慣、加齢などさまざまだ。しかもシニアは複数の疾患を合併しているケースが多く、治療も一筋縄ではいかない。その上、症状を悪化させないためには、食事、運動、睡眠といった生活全般をコントロールすることが肝になる。しかし、体調の悪化で気力が失われると、人づきあいが減り、出歩かなくなり、食事がおろそかになり、足腰が弱るといった悪循環にはまりやすく、ここから自力で抜け出すのは難しい。ひとり暮らしの高齢者が増えているのでなおさらだ。

そんななかで、療養のモチベーションを保つために必要なのは、患者としてだけでなく、「生活者」としての彼らに寄り添うケア環境ではないだろうか。医師や看護師による従来型の医療だけでなく、一人ひとりの状況を理解した上で、生活を見守る存在が求められているのだ。

この半面、元気なシニアも確実に増えている。2017年度の体力・運動能力調査の結果を見ると、65歳から79歳までの男女の体力は明らかに向上しており、現行の調査が始まった1998年の結果より5歳ほど若返った項目もある。彼らの多くは日常的にスポーツに親しみ、日々の生活の充実を実感しているという。

このようにアクティブなシニアこそ、慢性疾患を抱えるシニアのウェルネスライフを、心身両面でサポートするのにふさわしいのではないだろうか。食事や運動を一緒に楽しむだけでなく、血圧測定や服薬介助といった簡単な治療サポートも提供し、症状が変化すれば必要に応じて専門医療機関につなぐ。特に医療、スポーツ、カウンセリング関連の専門職を経験した人材の需要は高いだろう。

厚生労働省は、住み慣れた地域で最後まで自分らしく暮らせる「地域包括ケアシステム」を推進しているが、上記のようなケア人材の確保は、その実現の重要なファクターであり、今後は資格創設なども含めて検討の価値がある。

シニア特有の症状や悩みに共感し、深く理解できる同世代のケア人材は、人生の終末期を支えるセラピストとしてもポテンシャルが高い。若い人たちのサポートには遠慮もある。シニアがシニアを支えるモデルは、これからますます重要な視点となってくるだろう。

※本文はすべて「THINK HUMAN EXHIBITION」の展示物より抜粋

(監修者)
株式会社三菱総合研究所 研究理事
亀井信一

東北大学大学院理学研究科博士課程前期修了、理学博士。1986年、三菱総合研究所入社。専門は、物理化学、システム分析、技術予測。日本工学アカデミー会員。宇宙環境利用実験、分子ナノテクノロジー実験、研究開発戦略や科学技術政策などの研究に従事したのち、先端科学研究センター長、人間・生活研究本部長、政策・経済研究センター長などを経て、現在、研究理事。先端科学技術の進展を見込んだ長期未来予測と生物に学ぶ創発研究が現在の関心ごと。

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