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自動運転は、だれの人生を動かすのか?

交通事故を減らし、移動時間の過ごし方を変える自動運転。その発展により、2035年以降、人間社会は激変する。物流サービスの変化、土地の価格変動、家族のカタチすら変えてしまうかもしれない。自動運転がもたらす、まったく新しい可能性とは。

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自動運転に関する技術革新が目覚ましい。そう遠くない未来に訪れるドライバーレス時代到来を前に、私たちが忘れてはいけないのは、運転するのがAIになったとしても、移動するのは「人」だという点だ。自動運転は、社会のあり方を変え、やがて家族や人間関係のカタチをも変えうるインパクトを持っている。どんな未来が待っているのか、自動運転の未来を描いた四人のクリエーターの小説を紐解きながら考える。

四人のクリエーターが描く自動運転の未来

アニメやSF映画の中でだけの話だった自動運転。ここにきて、AI技術の発達により、人間の介在しない完全自動運転が現実的となってきた。「移動」プロジェクトチームは、「自動運転」をキーワードに、最先端技術の世界を、小説というアナログな手法によって表現してもらうことにした。依頼したのは、ドラマ、映画、小説、演劇の各世界で活躍する四名のクリーター。やがてやってくるドライバーレス時代という未来に生きる人々の営みを描いてもらった。

脚本家のふじきみつ彦さんの「この道のつづき」では、父と母、そして「僕」が家族最後のドライブに出かける。目的地は、祖父の告別式。AIが制御するその自動運転車は2020年代に作られたおんぼろの旧式だが、データを呼び起こせば、その日のドライブを「Repeat」できるモードが備わっている。「僕」は、父と母が出会った日を設定した。家族の原点となる場所に三人を運んだ自動運転車は、最後に、AI自らの感情を初めて表現し、家族を驚かせる。そして、その役目を終えることを自ら悟ったように、明け方の町へと一人で走り出す。

映画監督の三島有紀子さんは、お城に住むお姫様を主人公に、示唆に富んだおとぎ話のような物語を紡いだ。「注文の多いキリハ姫」の主人公キリハは、18歳ながら自動運転の車を発明し、億万長者になった。好きな時に好きなところに行けるのはその車の長所でもあり、すべての行動を把握されてしまうという短所でもあった。キリハも父親の管理が窮屈で、「月野」へ家出。湖のほとりで出会った銀髪のマニとアスパラガスを食べたり、カヌーを漕いだりして、プログラミングされていない、たまたまの出会いの喜びや生きている実感、誰にも束縛されない自由を得るのだった。

平野啓一郎さんの「僕の知らなかった目的地で、あの日」では、ダンと名前を設定された車とその持ち主の「僕」とのやり取りが中心となってストーリーが進む。ダンの名を呼び、「二時間くらいで行ける、どこか眺めのいいレストラン」と告げれば連れていってくれる。車窓からの眺めやBGMは持ち主の好みのままだ。ダンは「僕」の彼女の乗車記録が三か月ないので登録データを消去していいか尋ねる。ダンは、彼女が「僕」と単に別れただけなのか、死んでしまったのか区別がつかない。人間は完全に忘れたくてもそうできないが、AIはデータさえ消去すれば二度と思い出すことはない。

THINK HUMAN EXHIBITIONのプレゼンテーションのゲストスピーカーでもある前川知大さん。「二つの速度」で、自動運転の時代に育つ少年と、元・タクシー運転手の鈴木との交流を描く。二人の出会いは、自動運転バスの中だった。落雷のため動けなくなったAIが運転するバスを、鈴木はマニュアルモードで運転する。後日、少年は、鈴木に頼み込み、彼が運転する車に乗せてもらう。人間が運転する車は、乗り心地は悪いが、ものすごいスピードが出る。結果、接触事故を起こしてしまうのだが、刺激的な運転という体験に少年は感動する。

四人の作家が描いた小説からインスパイアされた世界をライブペインティングで描いたのは、世界中から注目を集める韓国のアーティスト、キム・ジョンギさんだ。


人にとって大切なことを失わない開発を

THINK HUMAN EXHIBITIONの「移動」プロジェクトのブースでは、韓国のアーティスト、キム・ジョンギさんが、短編小説に描かれている世界をライブでドローイングし、ブース内では、短編小説四編をまとめた冊子も配られた。

そしてプレゼンテーションには、ゲストスピーカーとして劇作家、演出家の前川知大さんが登壇。彼の作品「二つの速度」の冒頭、主人公の少年と妊婦の母親が乗っていた自動運転のバスが、落雷によってシステムがシャットダウンする。妊婦は破水してしまい、「この中に運転できる人はいませんか」というセリフが登場する。バスには、かろうじて運転ができるおじいさんが乗っており、マニュアルモードで運転するのだが、その乗り心地は自動運転の快適さに比べると、格段に悪い。しかし、少年は、乗り心地の悪さをネガティブにはとらえていない。

「人間が運転するには、ステアリングを通じて、路面の状況だったりを“感じる”ことが必要であり、その媒体となるのが手です。これが、AIによる運転になると車体のフィードバックが必要なくなって、決定的に乗り心地が変わってくるんじゃないかと思うんです」と前川さん。

自らがステアリングを通じて車を動かす体験は、少年を大いに刺激する。技術が進んでいく中で、そうした個人的な「体験」ができる機会は減っていくだろう。また、少年は、妹が生まれてから母親が自分をかまってくれず、身体的接触への欲望が満たされていない。

「技術が進み、便利にはなっていくんだけれども、少年が体験として満足していない環境と、ノイズの少ない自動運転車が持つ、ある種の物足りなさを重ねて描きました。技術は、人と人との間に身体的な距離感を生む。身体的な負荷は軽減されるんだけども、それは物足りなさにも繋がっていくのではないかと、現時点でも実感しています」(前川)

自動運転の発達により、どんどんインフラ開発は進み、様々な技術は進化し、サービスの形態も変わっていくだろう。人の心身にも少なからず影響が出てくるはずだ。そんな中、技術者は、ともするとテクノロジーにばかり目が向きがちで、人にとって大切なものが置き去りにされる可能性もある。前川氏から提示された気づきは、我々が急速に向かっている自動運転の社会全体への提案にもなり得る。人間は、根本的に、どれだけ技術が進もうとも、感情を持ったアナログな生き物であることに変わりはない。最先端のデジタル技術を搭載したモビリティの世界を生きる時でも、そのことは忘れてはいけない。そんなことを知ることができたこの四人のクリエーターたちとのコラボレーションは、車の性能を追い求めるだけではない「人が活きるモビリティ」を考える第一歩となった。

社会を激変させる自動運転は、人の健康や思考にどんな影響があるのか、快適な移動空間とは何なのか。モビリティを主力事業のひとつに据え、次世代モビリティの開発を行っている帝人。今後も、自動運転車だからこそもたらすことのできる新しい体験や可能性を追求し、未来のモビリティが変えていく価値観を本当の意味でのQOL(=Quality of life)と照らし合わせながら考え、よりよいソリューションを提案し続けていく。

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