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味覚以外で、どこまでおいしくなるのか?

食の質は向上し、味が解明され、いつでも・どこでもおいしい食べ物が手に入るようになった現代。しかしその反面、均一化されたおいしさで溢れてしまった。ゆえに食べることの喜びや価値は変化した。味覚以外の情報で、おいしさの個性を引き出せないか。

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食育という分野において、既存の栄養学をベースとした考えた方とは違う、さまざまなアプローチを行っているフードアナリスト、とけいじ千絵さん。食べるという営みの根本的な意味についてどう考えているのか尋ねると、食事は単に栄養を補給することでも、舌先で味わうことでもなく、「食べ物の情報をいかに五感でキャッチするか」であるという、一つの考え方を示してくれた。

料理にきちんと向き合うことができるか

「食べることは、味を感じたり、見た目から想像したり、匂いを嗅いだり、五感をフル稼働する行為だと思っています。だから、食育というのが栄養の側面ばかりであることに違和感を覚えていました。五感を働かせて食べ物の“情報”をキャッチする、そういうプログラムが食育に足りていないのではないか、今のままでは好き嫌いをなくしましょうとか、そういった目先ばかりに捉われてしまっては食育が抱えている問題は解決できないのではないか、と思ったんです」

例えば、小学生から高校生までの間で現在もっとも問題視されている、一人でコンビニ食や外食をする孤食という現象。「一人で食べないで家族で食べましょう」というスローガンを掲げるだけでは何も解決しないと、とけいじさんは言う。社会構造から変えなければならないような大きな問題を単に批判するのではなく、むしろ一人で食べる時間を豊かに、きちんと食と向き合うような方法を考えるべきだという。

「もちろん栄養的な問題は大事ですし、そもそも味覚がいかに発達しているかという主軸が大事です。甘味、旨味、塩味、酸味、苦味といった五つの基本味を口内や喉などにある味蕾(みらい)という器官できちんと判別できるかどうか。味わう能力が未発達になってしまうと、食べ物を美味しく感じれられなくなり、一人で食べる時に『ながら食べ』になってしまったり、お菓子などばかりに意識にいってしまい、栄養のコントロールができなくなってしまったりするんです。食事から食べ物の情報をたくさんキャッチできて、食べること自体を楽しむことができれば、孤食ってそこまで問題視する必要がないと思うんですよ。会話を楽しむとか、他人とテーブルを囲むということではなくて、食べ物と自分が対話をして、そこからいろんな情報を受け取って、それが美味しさにつながる。その楽しみを幼児期の段階で知っておけば、一人で食べていても、その食事は美味しくなると私は思っています」


私たちは情報を食べている

THINK HUMAN PROJECTでは、“味覚以外で、どこまでおいしくなるのか?”をテーマに、ある食品に味覚以外の情報を次々と加えていき、被験者たちの食欲などがどのように変化するのか検証する実験を行った。具体的には、透明なアクリルのボックスの中に一見何だかわからないクッキーのような白く四角い食品を置き、参加者に食べたいかどうかを尋ねる。食品に対してまっさらな背景ではほとんどの人が食べたいとは思わない。だが、その背景を少しずつ変え、使っている素材や料理人のキャリアなどの“情報”を与えていくと、その反応に大きな変化が見られたのだ。

人は、舌だけで味を判断しているわけではない。とけいじさんは、食育を行う一方で、飲食店のコンサルティングも行っている。そこでは料理の味の調整だけでなく、いかに情報を与えるか、という部分でのアドバイスを行っているという。

「例えば今の流行りは、メニューに食材だけを書いておいて、調理法はすべて口頭で説明するというもの。食材だけを見て、まずお客さんに想像してもらうんです。そして実際に料理を出しながら、細かく説明をする。すると、自分が思ったのとはこう違ったという思考のプロセスを経ることになります。食べ物に対して、少しでも意識が巡ると美味しく感じるんです。情報があるほど人は美味しく感じたり、食べ物をきちんと味わおうという姿勢を見せたりするようになる。同じように子供に『何の味がする?』といちいち聞いたり、調理中の音を聴かせたりと、食べ物に関する質問や声かけをすることがすごく大事なんです。大人も子供も同じなんですよ」

母親が手作りで料理をする必要もないと、とけいじさんは提案する。母の手作りという“情報”に美味しさを感じる人はもちろん多く存在するが、未来の世界に継承すべきは「食事を楽しむ」という能力だと考えている。たとえ出来合いのものであったとしても、きちんと食と向き合って、五感をフル稼働させ、その料理が訴えてくるものと対峙することができるかどうか。自分がどうしたら食を美味しく感じることができるのか。その方法を伝えることこそが、本当の食育なのかもしれない。

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