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空間は、健康をつくれるのか?

身体中のあらゆる細胞の中に存在し、健康を左右すると言われている体内時計。現在の都市空間において、明るすぎる光や自然のサイクルとかけ離れた生活リズムなどの影響により、その機能が大きく乱されている。空間により乱された体内時計は、空間により整えることはできるのか。

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健康と空間のより良い関係を考える「住空間」プロジェクトチームは、THINK HUMAN EXHIBITIONにおいて「空間は、健康をつくれるのか」をテーマに、体内時計を正してくれる空間づくりを考察した。明るすぎる都会の夜、自然のリズムとかけ離れた夜型生活など、体内時計が乱れがちな現代社会において、どんな視点から空間作りをしていけばよいのだろうか。

眠りと光、そして体内時計は、切っても切れない関係にある

夜、安らかに眠りにつき、翌朝すっきりと目覚める。昨今、そんな当たり前のことが難しくなっている。世の中はこれだけ便利になっているのに、ソーシャルジェットラグ(社会的時差ぼけ)や慢性的な睡眠不足といった睡眠障害は増え、体内時計は狂う一方。このままいけば、50年、100年後の社会ではサーカディアンリズムの乱れは当たり前になっているのではないか……。本エキシビションでは、体内時計の乱れによる不調を正し、サーカディアンリズムに則った健康的な生活をもたらす未来の住空間を展示した。また、トークセッションでは国立大学法人筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構、柳沢正史機構長・教授をスピーカーに招き、眠りと体内時計、光の関係について語っていただいた。

セッションはまず、体内時計と密接に関わる睡眠についての考察から始まった。「眠りとは、過去20年に渡って睡眠の研究をしている自分にとっても謎そのもの」と柳沢さん。そもそもヒトはどうして眠るのか、眠気の実体とは何なのか、その本質はほとんど明らかになっていない。

「睡眠は、現代の神経科学の中で最大のブラックボックスの一つといわれています。ずっと眠らないでいると、例えばラットの場合10日から2週間程度で命を落としますから、睡眠が必須であることはわかっています。が、どうして眠らなければいけないのかはわかっていない。よく『睡眠は脳の休息』などと書かれていますが、実は睡眠中も脳は活発に活動しており、何もしないで休んでいるとは言い難い。コンピューターで例えるなら電源を入れたままオフライン状態でメンテ作業をしている状態。脊椎動物はもちろん、無脊椎動物である昆虫や線虫も、つまり脳あるいはそれに相当する複雑な神経系を持つ動物は全て睡眠をとることがわかっています。一見、眠りは明らかに非生産的なうえ生存リスクを高めます。それにも関わらず、全ての動物が眠るということは、そのリスクを上回るだけの生存にとって重要な機能があるということです。しかし、それが具体的に何かはわかっていません。加えて『眠気』の神経科学的な正体も謎のままです。つまり、いちばん単純な疑問にこの分野は答えを出せないでいるんです」

これまでの研究により、眠気は主に2つのプロセスにより制御されることがわかっている。長時間起きていると次第に「眠気のもと」が溜まり、眠ると「眠気のもと」は解消される。これは一日の睡眠量を決める恒常性制御機構の働きによるものだ。しかし、それだけでは朝目覚めた時に一番眠気が少なく、時間が経つほどにどんどん眠くなることになってしまう。そこでもう一つのプロセスである体内時計が、日中から夜にかけて恒常性制御による眠気を相殺するように働くことで、人間は昼間、ほぼ一定の覚醒度を保っているのだ。

体内時計を整えるために効果の高いブルーライトを活用し、照明は天井という既成概念を捨て、光を網膜から摂取しやすいよう壁そのものを照明として活用する住空間の提案を試みた。

今回の展示では、体内時計を制御する術の考察からスタートした。

「脳の奥深くにある視交叉上核に、体内時計全体を司るマスタークロックがあります。時計そのものは身体の中の全ての細胞に備わっていますが、その全身の時計を制御するのがマスタークロックです。ではそのマスタークロックをどうやってコントロールするのかというと、外界からの光がその役割を担っています」

目の網膜には露出計のようなセンサーが備わっており、青くて強い光(400〜500ナノメーター)に反応するようにできている。網膜の露出計センサーの細胞から神経繊維を介して、視交叉上核へともたらされた光の情報によりマスタークロックは地球の自転と同調するのだ。朝早い時間に網膜のセンサーが青い強い光を感知するとマスタークロックが少し(一日一時間ほど)進み、夜遅い時間帯に強い短波長の光を浴びるとマスタークロックが少し遅れる。時差ぼけは、このシステムをうまく利用して徐々に解消することができる。


自然光を模した照明で、体内時計を整える

体内時計は光と密接に関わり、サーカディアンリズムを形作る。これに多大な影響を与えるのが、住空間の照明である。

「体内時計を整えるという観点からお勧めしたいのは、夜間には照度が低く、黄色い(色温度の低い)照明や間接照明などを効果的に使った住空間にすることです。照度が高く、かつ色温度の高い白い光を天井から煌々と照らするような夜の空間では、前述したようにマスタークロックが遅れるという現象が起きがちです。近年、スマホなどの画面から発せられるブルーライトの問題が指摘されるようになりましたが、画面の大きさを考えると光の総量はさほど多くはない。それよりも有害なのは部屋自体が明るいこと。夜間の明るい部屋は、ソーシャルジェットラグを起こしやすい環境と言えるでしょう」

本エキシビションでは、体内時計を整える効果のあるブルーライトを壁全体に活用した、「リセットブルー」と名付けた空間を発表した。朝は青い強い光を、眠りに向かう夜は黄色い優しい光を。時間帯によって異なる光が、サーカディアンリズムを整える。

「人類は何百万年も昔から地球の光環境の中で暮らし、それに合わせて進化してきました。我々の体内時計も網膜のセンサーも、その光環境に最適化されています。過去100年の光環境は、生物学的には異常であると言わざるを得ない。夜は暗く、朝は明るく。本来の自然のリズムに合わせることが健康的と言えるのではないでしょうか」

今回の考察により、サーカディアンリズムは人間の根源的な部分と深く結びついており、これまで人類が自然の中で営んできたように夜は暗い環境で眠りにつき、朝は朝日を浴びて目覚めるというリズムが体内時計を整え、心身の健康に寄与することがわかった。これは50年後、100年後も変わらないだろうというのが住空間チームの出した答えである。

周囲の環境を整えることで体内時計を整えて不調を正す「リセットブルー」のように、一人でも多くの人が健やかな生活を手に入れ、QOL(=Quality of life) の向上を図れるよう、帝人はより良い空間づくりに励んでいく。

参考資料:
Nature and Science of Sleep

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