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人間は、老化をどう迎え入れるのか?

医療やテクノロジーの進化により、健康維持・増進、病気予防が加速している現代。老化メカニズムの解明がさらに進めば、多くの人が寿命を迎えるまで若々しく元気に年齢を重ねることも可能に。老化を恐れない時代は、もうすぐそこに来ているのかもしれない。

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超高齢社会に突入した日本はもちろん、世界各地で高齢者の人口が急速に増えている。そんな中、あらためて注目が集まっているのが、健康寿命の延伸だ。精神的にも肉体的にも高い機能を保ったまま、年齢を重ねることはできないか。それを実現するかもしれない物質として世界中の研究者から高い注目を集めているのが、NMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)だ。今回はNMN研究のパイオニアであるワシントン大学 医学部 発生生物学部門・医学部門の今井眞一郎教授にインタビュー。老化のメカニズムを紐解きながら、楽しくポジティブに年齢を重ねるヒントを紹介しよう。

そもそも、老化とは?
老化現象はどうして引き起こされるのか?

人間にとって永遠のテーマである老化と寿命に関する研究が世界各地で進められている。この研究分野を牽引する研究者が今井眞一郎教授だ。2000年、マサチューセッツ工科大学のレオナルド・ガレンテ教授とともに「長寿遺伝子」とも呼ばれるサーチュインの機能と寿命との関連を発表した研究者である。

「老化とは、時間の経過に伴い身体のさまざまな機能が減退する現象のことを言います。例えば、加齢により臓器がうまく働かなくなることで、血糖値が上がったり高血圧になったりといった現象が発生しますが、これが老化現象です。ただし、その現象が現れるスピードやパターンは個々人により異なるのが、老化の特徴です」

今井教授によれば、老化現象は環境要因と遺伝的な要素の二つに影響を受ける。栄養状態および刺激やストレスの程度といった環境要因に、それぞれが生まれ持った遺伝的要素がかけ合わさり、老化現象の発生する速度や程度が決まるのだ。

「老化そのものは病気ではありません。ただし、身体や臓器の機能の低下の度合いによっては問題となることがあり得ます。例えば、加齢により脳内にある種のタンパク質が蓄積すると神経細胞機能が徐々に低下しますが、この機能低下がアルツハイマー病を引き起こすことがわかっています。つまり、老化がある一定の病気の要因となるということは言えるでしょう」

最新の研究から、老化や寿命を制御するのは、ホルモン分泌、体温、心拍など、自律神経(交感神経・副交感神経)の働きを司っている視床下部であることがわかってきた。視床下部とは、例えるなら航空機のオートパイロット機能を制御するコントロールセンターだ。マウスの研究から、この視床下部に老化や寿命を制御する、非常に重要な神経細胞の集団が存在することがわかっている。この神経細胞の機能低下がさまざまな老化現象を引き起こすのだ。

細菌から哺乳類まで多くの生物に、サーチュイン遺伝子が作り出すサーチュインというタンパク質が存在する。このタンパク質を脳内だけで増えるように遺伝子操作したマウスを作って調べてみたところ、視床下部の神経細胞の働きが活発になり、睡眠の質が向上し、健康寿命がオスで9%、メスで16%も延びたのである。これはヒトの寿命に換算すると男性7〜8年、女性13〜14年に相当する数字である。このように、サーチュインは老化と寿命の制御に極めて重要な役割を果たしているのだが、それを活性化するのがNMNなのだ。実際、NMNを一年間投与したマウスには顕著な抗老化作用が認められた(コラム参照)。


食事、生活リズム……、
老化を遅らせる生活習慣とは?

マウスへの投与では著しい老化制御作用が認められるNMN。今井教授の所属するワシントン大学医学部では現在、ヒト臨床研究が進められている。人間への効果が実証されるのはもう少し先のことになりそうだが、それに先立って今井教授は、NMNを高めるために適度な運動とサーカディアンリズムに則った生活を自ら実践している。サーカディアンリズムは体内時計ともいわれ、地球の自転に呼応した24時間周期のリズムを刻む。今井教授によれば、生活リズムをこれに合わせることで老化を遅らせることができるのだ。

「サーカディアンリズムを正すのに重要なのが、朝食。活動時間のはじめに高いエネルギーを摂取することで体内時計の針を正し、サーカディアンリズムを保持することができます。このとき、前夜の夕食から12時間以上空けて空腹の時間を長く取ると、老化を遅らせる効果がより高まると予想されます。私は、夜8時には軽めの夕食を摂り終え、翌朝8時にボリュームたっぷりの朝食を摂るというリズムを守っています。これは時差ボケ解消にも効果的です」

食事内容では、日本では目の敵にされがちな糖質も重要だという。
「日本でも一時期、糖質制限ダイエットが流行りましたが、寿命のサイエンスから考えてみると糖質も非常に重要です。マウスを使った実験では、炭水化物が多く低タンパクのエサを与えたマウスと、低炭水化物・高タンパクのエサを与えたマウスでは、後者はスリムで見栄えはいいものの、前者よりも早死にしてしまいました。ある程度の年齢になったらBMIは少し高め、男性なら24〜26、女性なら22〜24くらいの数値、つまり『ぽっちゃり』が最も死亡率が低いということもわかっています。太りすぎも痩せすぎもダメ。というのも、脂肪組織が分泌する特殊な酵素がNMNを作り出し、視床下部内の老化を司る特定の神経細胞群の働きを支えるということがわかってきたからです。加えて、適度な運動がこの酵素の量を増やし、NMNの産生を高めてくれることも実証されています」

NMNのヒトへの老化制御作用が実証された場合、加齢とともに減少してしまうNAD(コラム参照)を補うべく、サプリメントなどでNMNを摂取してサーチュインを活性化させる生活リズムで暮らすようになるだろう。果たして、そうした社会ではどのようなことが可能になるだろうか。

「まず、社会問題となっている介護の問題が改善するでしょう。NMNの摂取により、健康寿命が延び、寝たきりの高齢者が減少する可能性が高い。国の財政を逼迫する社会保障費を削減できるかもしれません。また、高齢者が社会と積極的に関わることで、労働力不足という問題の改善と、若者が高齢者を支えるという年金システムからの脱却も現実味を帯びてきます」

今井教授がその先に見据えるのは、“プロダクティブ・エイジング”、つまり個人の生活を満喫し、かつ社会にも貢献できるという新しい年齢の重ね方だ。これはまさに、TEIJINが目標とする未来のQOL=Quality of lifeのあり方に合致する。

「日本には『ピンピンコロリ』という素晴らしい言葉がありますが、死ぬ直前まで人生を謳歌し、いざというとき、後腐れなくあの世に逝く。そういう生き様こそが、未来のQOLといえるかもしれません」

コラム

NMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)は身体に取り込まれると、酵素の働きによりNAD(ニコチンアミド・アデニンジヌクレオチド)に変換される。NADは老化を抑制するサーチュインを活性化することが今井教授の研究から明らかにされている。このNADの量は加齢に伴い減少することが知られており、NAD量の減少こそが老化現象を引き起こすと考えられる。年齢とともに減少するNADをNMNの投与により補充したマウスの実験では、エネルギー代謝の上昇や血中コレステロール値および中性脂肪値の改善、すい臓や肝臓など、臓器の機能改善が認められた。また、加齢によって低下する骨密度や免疫細胞の数も上昇した。なお、適度な運動による筋肉刺激とサーカディアンリズムに則った生活リズムが、NADの活性を高めるということもわかってきた。

参考資料:
natureダイジェスト(老化を制御し、予防する)

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