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「感じる」は、言葉を超えられるのか?

世界は、多様な価値観を受け入れ合う、ポストグローバリズムの時代へ。国・人種・性・世代間のギャップなど、言葉だけでは伝わらなかったものを、感性にフォーカスし、その可能性を探る。

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言葉だけを頼りに、人はコミュニケーションをしているわけではない。声色や表情はもちろん、その場で共有されるあらゆるものによって、他人と通じ合おうと試みている。あるいは人と人との間には、目に見えず、耳にも聞こえないけれど、存在するものが、確実にある。日常的には意識されることのないそれらを顕在化させ、共有することによって、人と人の関係性は確実に変化する。NTTコミュニケーション科学基礎研究所に所属する渡邊淳司さんの研究は、人間の触覚を利用した、新しいコミュニケーションの形を探求することにある。

意識的な“私”と、情動的な“身体”

〈心臓ピクニック〉と名付けられた渡邊さんの研究活動のひとつは、自分の心臓の鼓動を触覚として感じることのできるボックスを手で持ち、さらにそのボックスをコミュニケーション相手に渡して交換する、というもの。平常心で話していると思っていた自分の鼓動が予想よりもはるかに速かったり、反対に焦っているように見えた相手の鼓動が実はゆったりと落ち着いていたり。渡邊さんによると、心臓の鼓動という身体反応から生まれる振動は、表面的なコミュニケーションとは異なる意味を帯びるという。

「自分は大丈夫と思っていても身体は緊張してドキドキすることってありますよね。自分の身体なのに、意識できないところで情動的に反応する、“私”とは異なる自分がいるんです。そういう意味では“私”にとって身体は、他人のようなものと言えます。いつの間にか勝手に何かに反応してしまうわけですから。自分の鼓動を手に持つ、触覚で感じるということは、“もっとも身近な他人”を感じているのに等しい。そういったインタラクションを通じて、大きな意味での『私』をどう感じていくのか、ということを研究対象としています」

〈心臓ピクニック〉では手順が決まっている。まず自身の“鼓動”を手の上に置き、1分以上静かに感じる。この“儀式”を経ることで、もっとも身近な他人である自分の身体に対して意識を向けることができるという。次に目の前の他人と“身体的な情報”としての鼓動を交換する。それらすべての過程によって、自分の中の他人、さらに他人の中の他人を感じることへと意識が広がっていくという。

「ワークショップで“心臓の交換”を続けているうちに、人の関係性とか日常の行動を変えていくような何かがそこにあるんじゃないかと思うようになったんです。〈心臓ピクニック〉をすることで、今までほとんど話をすることがなかった人たちの距離が急に縮まったりする。グループワークをする前に行うことも多いのですが、すると『この人はこういう人だから、こう反応するだろう』みたいな想像力を働かせるようになる。そこでのコミュニケーションには相手のことを考える共感的なイマジネーションと、何かを生み出そうとする共創的なクリエーションの両方のソウゾウ力があるのかなと。“心臓の鼓動”という、一番大事なものをいきなり人から渡されたり、渡したりするわけです。それは特別な共同身体体験になる。いわば機械が、人と人の間に新しいコミュニケーションの道筋や場を作っているわけです。テクノロジーを使う意味は、そこにあるのかなと思っています」


身体的な共同体験が持つ力について

心臓の鼓動は、その人の存在そのものを表す振動であるが、通信を介して人と人とのコミュニケーションツールとして、日常化されたときに、果たして人々の意識、あるいは身体に変化は生じるのか? 渡邊さんの興味には「触覚による共同体験」というものがある。
「触覚的、身体的な共同体験という意味で、足湯とか神輿に興味があるんです。足を同じ温泉につけていると、そこにいる他人との会話に対する障壁が下がったり。神輿を一緒に担げば、同じものに同時に力を加えることで、仲間意識が生まれる気がする。そういう“場”が持つ力や共同体験の効果を、テクノロジーと掛け合わせたら、どんなことができるのか? を考えているんです」

今回の展示では、主人公の身体的な情報である“心音”に触れながらドラマを鑑賞する、という試みを行う。そこでは本来は意識する必要のない、いわば“もう一人の主人公”が鼓動を通じて伝送されることになるだろう。果たして視聴者は、何を感じることになるのか。ドラマという虚構の世界が、多層的な意味を持って、視聴者に届くことになるはずだ。

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