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生物38億年の進化を、まとえないか?

人間の生活と共にある繊維や衣服が、もし劇的に進化できたら、社会自体が大きく変わるかもしれない。
生物が38億年かけて進化してきた環境適応能力を理解し、あらたなものづくりを探る。

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気象庁によれば、東京の平均気温はこの100年で3.2度も上昇したという。このヒートアイランド現象は都市化の影響が大きいというが、多くの自然生態系に深刻な被害を与える急激な気候変動が世界的な問題となっている。そこでTHINK HUMAN EXHIBITIONでの「繊維」プロジェクトチームは、次の100年で起こりうる気候変動や環境の変化へのソリューションとなる未来の繊維の可能性を模索した。100年後の暮らしに欠かせない繊維とは、いったいどんなものだろうか。

地球温暖化、海面上昇。未来の社会で役立つ革新的な繊維って?

来たる環境の変化に備えてこれからの繊維の可能性を模索したとき、「繊維」プロジェクトチームがヒントを求めたのがバイオミメティクス(生物模倣)である。未来のQOL(=Quality of life)向上のヒントは自然界のエンジニアリング、つまり生物38億年の進化の歴史の中にあるのではないか、そう思い至ったのだ。そもそも帝人は「人造絹絲」、つまり絹を参考にしたレーヨンを作る会社として創業した。そして過去100年でモルフォ蝶にヒントを得た構造発色繊維「モルフォテックス®」、ハスの葉を参考にした超撥水素材「レクタス®」などを開発、生物を観察しその生態を学ぶことで新しい繊維の歴史を切り拓いてきたのである。THINK HUMAN EXHIBITIONでは、この分野のトップランナーの一人である国立大学 法人浜松医科大学 光尖端医学教育研究センター特任教授の針山孝彦教授と、未来志向のコンセプト設計を得意とするデザイン・イノベーション・ファーム「Takram」の谷口靖太郎さんとともに、100年後の暮らしに寄り添う全く新しい繊維の考証を行なった。

展示では自然界に見られる自己組織化(Self-Organization)の一例としてタマムシを紹介した。タマムシは構造色と呼ばれる特殊な発色メカニズムを持つ丈夫な外殻を自己組織化によって生成している。この外殻の素材はクチクラと呼ばれるもので、人間の爪や髪の毛もクチクラの一種である。

今回の展示では100年後の未来をシナリオやプロダクト、イラストレーションなどで表現している。そのプレゼンテーションの中心となったのが、Takramが発想した未来の繊維テクノロジー「SELFORG」である。

「『SELFORG』とは自然界の自己組織化(Self-Organization)という現象を参考にして生まれたアイデアです。微小な粒子を特定の条件下におくとその粒子から合成繊維が生成されるというテクノロジーで、粒子から繊維が生えてくる様が植物の発芽にも似ていることから『繊維の種』という通称も設定してみました。自己組織化的なものづくりの手法を現在の産業はまだ会得できていませんが、『SELFROG』はそういうものづくりが可能になっているかもしれない未来の世界の繊維テクノロジーなのです」(谷口)

「人間の爪や昆虫の外殻のように、自然界では複雑なパターンや構造を自律的に形成する自己組織化という現象が見られます。私たちはまだ自己組織化を解明できていませんが、次の世代の研究者がこれを実現させるでしょう。そしてこの『SELFORG』というテクノロジーが実現したならば、100年後の社会に必要不可欠になっているかもしれません」(針山)

イベントでは「SELFORG」というテクノロジーによって生み出されたプロダクトとそれらが使用されているシーンのイラストレーションやジオラマが展示された。温暖化によって変化した未来の世界で、バイオミメティクスによって進化した繊維テクノロジーがどのように活躍しているかを描き出した。


バックキャスティングの思考で次の100年を考える

針山教授と谷口さんによるトークセッションでは展示のために考案されたさまざまなアイデアに触れながら、未来の繊維テクノロジーの可能性が議論された。

「温暖化が進んだ未来はどんな姿になっているのかというテーマを与えられ、僕たちは『夜行社会』と『軽量でオフグリッドな世界』という2つの世界観を描いてみました。『夜行社会』は日中の気温がさらに上昇していくと人類は生活のコアタイムを夜にシフトするのではないかという仮説です。昼行性の人類が夜型生活に移行することでさまざまな変化が起こるはずですが、一例として標識や看板のデザインが変わることを想像しました。昼間よりも夜間での視認性を上げるべく、夜行社会の標識や看板は現在のものと比べて色が反転しています。また、『軽量でオフグリッドな世界』は海面上昇により湾岸部にある世界の主要都市が水没し、大規模な人口移動が発生するという仮説です。人口移動によって新たな都市エリアの開発が必要になり、オフグリッド(分散・独立型)な都市が出現します。現在のように上下水道、ガス、電気というインフラを大規模に整備するのではなく、地産地消的に電気や水、食料を作って小規模なコミュニティ単位で消費するようなモビリティの高いオフグリッド型都市になるのではないかという予想をしました。せっかく作った都市を捨てるという経験をすることによって、人々の街作りのコンセプトが変化するんですね」

「沿岸部から離れたオフグリッドな都市で水は貴重な資源になる可能性があります。そこで考えられるのが、例えばティッシュのように使い捨てできる衣服。製造コストよりも洗濯コストの方が高くなった場合には、服を洗濯して繰り返し使用するよりも使い捨てるほうが合理的になるかもしれません。捨てることの環境負荷が少なく、製造のプロセスにおいても巨大エネルギーを必要としないのであれば、使い捨てであってもサステイナブルなプロダクトライフサイクルが実現できます」(谷口)

「現在の技術をどんどん改良していこうというフォアキャスティングの思考も大切ですが、『未来の社会はこうなるだろうから、こうしてみるのはどうだろう』というバックキャスティングの思考がより良い社会を築くことは間違いありません。バイオミメティクスではバックキャスティングを重視していますが、生物のシステムに学んだ新しいものづくりのアルゴリズムになり得る『オフグリッド都市』やSELFORGはその先進的な一例だと思っています。何より、次世代の社会や世界観をデザイナーが具体的にイメージしてくれることは、バイオミメティクスと異分野が連携するという意味で大変有意義なものですね」(針山)

創立100周年を記念して開催したTHINK HUMAN EXIBITIONでは、バイオミメティクスとデザイン・エンジニアリングの異分野連携によって100年後のQOLを向上させる繊維と、そんな繊維とともに進化する暮らしの一部を描いてみた。近年、プラスチックゴミの海洋流出など、合成繊維が改めて話題になっているが、これは産業革命以降、プラスチックなどの合成繊維が私たちの生活に密接に関わってきた証でもある。バイオミメティクスが教えてくれる低エネルギーでサステイナブルな繊維が現実のものになれば、100年後の暮らしはさらに豊かなものになっているだろう。そうした社会こそ、「暮らしは、繊維で進化する」と掲げる帝人が目指す、未来のQOLなのである。

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