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テクノロジーは、人間らしさをどう変えるのか?

人工臓器、埋め込み型マイクロチップ、AI。
テクノロジーの進化によって、道具は単なる補助手段ではなく人間の機能を拡張するまでに発展してきた。
人間は、進化し続ける道具を使いこなしていけるのか。
テクノロジーが人間の限界を超えるとき。
そのときの「人間らしさ」とは。

VOL.3

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VR(バーチャルリアリティ)やAR(拡張現実感)、AI(人工知能)といった言葉が盛んに使われ、一般生活レベルで取り入れられつつある今、「人間らしさ」の価値が大きく変わろうとしている。東京大学 先端科学技術研究センターの稲見昌彦教授は、身体性という観点から「人間らしさ」の移り替わりを考察する。

「私が考える人間と他の生物の違いに、自らの身体を自らが改変することができる点があります。自分の身体を、役割を含めて自ら変えていけるのが人なのではないかというのが、人間らしさについて考えた、現時点での私の考えです」

では、身体の役割はどのように変わってきたのか。歴史を紐解くと、農業革命や工業革命など社会革命が起きたときに、大きく変わってきたことがわかる。

「農業革命では、自らが食べていくのに必要なものを作るために身体を使ってきました。身体能力そのものが富を生む可能性も持っていました。工業革命が起こると、今度はそこまで身体的な力を必要としない、新しい機械を設計したり、それを操る能力が求められるようになりました」

そして、まさに今、私たちは情報革命の真っ只中に生きている。情報革命は、人間の考え方や価値観をも大きく変えつつある。

「工業革命以降の社会では、ばらつきやエラーが少なくて、均一であることが最も優れた価値とされていました。一方、情報社会では、むしろ違うことに価値が置かれ、変化があることを面白いと私たちは感じます。みんなが同じことを言っていたら、そこには情報の価値はゼロですよね。情報というのは、いかに違うことを最大化していくかに価値があるのです。とくに日本人は、みんなと同じであることに安心感を覚えますが、違うことができる、もしくは、違うことができる人を繋げる力を持った人がますます今後は求められるようになるでしょう」


衰えていく物理的身体と
自らデザインできる情報的身体

コンピューターの登場が私たちの生活をドラスティックに変えたことに異論がある人はいないだろう。では、情報社会におけるコンピューターのメリットはどこにあるのか。

「コンピューターの世界では、情報をコピー&ペースト、アンドゥができることに加え、リセットボタンを押せば、なかったことにさえできます。覆水盆に“返る”(笑)。たとえば、Twitterで炎上したら、別のアカウントでやり直せばいいわけです。現実世界で上手くいかず、バーチャルの世界で生きることを現実逃避というのかもしれませんが、見方次第で、ひょっとしたら現実世界で仕事に没頭して、他に何もしてないことの方が現実逃避かもしれません。もっと言えば、人生というものがひとつでしかないということ自体が幻想かもしれないとも考えられます」

稲見教授が指摘する情報のさらなるメリットに、時間の流れを変えられる点にある。物理的な時間は一方向で変えようがないが、コンピューターの世界では、時間を遡ったり早く進めたりできるのだ。

「同僚の牧野泰才先生が、モーションキャプチャーのデータをAIにディープラーニングさせて、0.5秒先の自分の姿を映し出す研究をしています。かなり高い精度で運動を予測できるようになってきたんです。そうしたコンピューターならではの能力を人間の身体に適応させると、自分の未来を見ながら行動できるというわけです」

SFめいた話ではけっしてない。これが、テクノロジーの現在地だ。そうした中で、現実を生きているはずの身体は、どうなっていくのだろう。稲見教授は、身体を情報的なアプローチによって、デザインできるものと捉える。

「身体を物理的な身体としてとらえると、老化が始まる20歳以降、年を取ることはネガティブに考えられがちでした。でも、情報的な身体というのは、身体拡張技術によって日々アップデートされ、昨日できなかったことが明日はできるようになるかもしれない。希望があるのです。分身だとか合体だとか、ロールプレイングゲームのようにパーティーを組んで一つの超人的な身体を作ることもできてくるでしょう。そうした時、物理的な肉体における性別も年齢は、何の意味もなさなくなるかもしれません。実際、スーパーヒーローになると優しくなるだとか、白人女性が黒人女性に変身すると、自身の中にある人種的な偏見が緩和されるなど、身体を変えると心も変わることが心理学の実験で報告されています」


シーンごとに身体を“着替える”
そんな時代がくるかもしれない

つまり、身体性の変化は、「私らしさ」といったアイデンティティや心の問題とも密接に関わる。

「私を例にとると、大学の教員としての私、家族の一員としての私は、態度を使い分けています。それは、みなさんも同じだと思います。“その人らしさ”が個にはあるんだという物語を頑張って作っていますが、相手によって自分を変えている時点で、相互作用こそが我々の本来の姿を作り出していると言えるのではないでしょうか。場合によっては、シーンごとに身体を着替えるようなことが起きてくるでしょう」

テクノロジーの進化は留まることを知らず、私たちはまだ情報革命の過渡期にいるに過ぎない。何をもって「人間らしさ」と言えるのか。その答えは、稲見教授の話すような未来が訪れ、本当の意味で、情報革命が達成される時までわからないのかもしれない。

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